『狂気について瞑想する人物』

 人物は棺を想起させるような白い板あるいは箱状のものを見つめている。首を前に突き出しタバコを手にしている。背景はフラットの濃濁緑色である、これは夢想空間(非現実)である。

 男が手にしているタバコ、これは吸うためというより祈りの儀式であり、唯一の現今、無の時間経由である。
 狂気だろうか、そうとしか言いようのない亡母への思いの隠蔽である。何がどこでどうして二度と会えない世界へ行ってしまったのか。死が隔てる世界への謎解きは、やはり狂気と呼ぶしかないのかもしれない。
 瞑想する人物と自分を客観視しているが、隠しきれない母恋いを隠すには狂気しかない。非現実を夢想する、この狂気でしか母は存在しない。母に結びつく時間は狂気と呼ぶしかないという狂気とは裏腹の冷静な判断。

 狂気について瞑想する男は断じて自分ではなく、任意の人物である。この距離、自分である人物を観察する自分を描いている。
 生命、存在、生と死への論理を超えた思い、執着。狂気と呼ばずしてなんと呼ぼう、デュシャンの思いは隠蔽された狂気によって胸の内に留まっている。

 写真は『マグリット』展・図録より