
天才の顔、確かに顔である。しかし、石膏のマスクであり、しかも右の目と左の頬が欠落している。この意味は何か。失ったものは取り戻せないが、再生できるということだとも思えない。
光なき世界、眼は閉じている。全体、人のように見えるが、人の態を為していない。
至極不安定なところに置かれ、(そう、人為的に置かれたものである)。
つまり、天才というものは、人為的な空想にすぎず、人が仮定し得た偶像にすぎない。
存在するが、存在しない、あくまで人為的な創造であるというメッセージであり、ならば、わたしの想像も許されるに違いない。マグリットの思いである。
写真は『マグリット展』図録より