
『彼は語らない』
焦点の当てにくいアッサンブラージュ。
石膏の白い仮面(マスク)、目をつぶっているが唇だけは赤い。
その背後には、眼を見開いた女だろうか・・・この顔は彩色されているが平面的であり、微動だにしない印象である。ただ眼だけが手前のマスクを凝視している。
マスクの方は細密に描かれており、瞑想している印象である。
この二つの関係は画面の条件に鍵があるのだろうか。
正確に四方へ広がる点描、円形のパネルは(時間)と(空間)を暗示している。その後ろの白い部分は女の手前なのか背後なのかが不明である。板状の面は何を示唆しているのだろう。
円形のパネルに刺さった棒のようなものは中心を外れている、つまり、この円形パネルが回転すれば、彼女は見えなくなる(消える)という仕掛けである。
この空間(時空)は重力を持たないが、円形パネルに浮遊するマスクの影が見える。
それぞれが孤立し、関係性を危うくしている。はっきりしているのはマスクを見つめる彼女の眼差しの確かさだけであり、それを受けているマスクの沈黙だけが奇妙にリアルである。
《意味の分散する時空》鑑賞者はこの空気感を正確には受け止め難い。そういう意図により描かれた不思議な絵は、彼女の眼差しだけを脳裏に残す。
見ることの不確かさ、見えることの不確かさ、『彼は語らない』のである。
写真は『マグリット展』図録より