『無題』

 ビルボケは女性らしい、そして豊かな安定した趣を感じさせる。向かい合う平たい紙状のシルエットは山高帽とコートを着け、それに靴を履いている。

 亡母とその息子の対峙ではないか。何も言わない二人・・・しかし擬人化された形には音符(音楽)がつづられている。通い合う心のリズムがある。
 亡母らしきビルボケには枝が延び葉の茂りが見える。
《生命》の宿り。
 百年、否、それ以上の寿命を持つ樹木に化身させた母への強い想い。亡母は息子マグリットの中では、決して死ぬことのない不死の権化である。

「お母さん、会いに来ましたよ」言葉のない世界。しかし、通じる音波(音楽)があるに違いない。
「ここへは来てはいけません」禁断の逢瀬・・・デュシャンの夢想である。


 写真は『マグリット展』図録より