
開口から見る景色は真っ暗であり、雷光だけがその景色を照らしている。究極の恐怖、絶命の危機さえある現世の光景である。船は辛うじて難破を免れているのだろうか。
ビルボケ(母の化身)に表情は無いが、直立ではなく少し傾いている、これ以上の傾きなら倒れてしまう傾度である。
動揺と心配、乱れる心…冥府の母はどうすることもできずに、ひたすら現世に残した家族を質的変換した姿で凝視している。この場所は、海上だろうか、ここもまた確固たる安定は保証されていない揺らぎが見える精神の景である。
頭上にある暗幕のようなものは板戸もろとも彼女の上に落ち、彼女の眼差しを被うかもしれない。
今、この刹那があるのみで、時間は止まっている。物語に展開はないが、止まらない精神の揺れが、この画に信憑性を与えている。
母への想い。《きっと、必ずや、母はわたし達を見ていてくれる》この確信である。
写真は『マグリット展』図録より