
『桟敷席』
ここはどんな場所なのだろう、床は少し傾げており、土色なのに波打っている。地面と水上の混合…ありえない質感である。
壁もフラットで茶色・・・地の底だろうか。しかし部屋の奥の少女は階下の劇場(演奏)を見ているように見える。桟敷席の向こうにも同じような窓(桟敷席)の設えがある。桟敷席は人物に対しかなり広い、無限とも思える開口である。
少女と双頭の奇妙な人物との関係は何だろう。双頭の人物は二人が一人に融解しているようでもある。ブルーのワンピース(女)ベージュのコート(男)、白い脚(女)、禿げ頭(男)・・・。
少女の背後には融解しかかった男女、両親が背後霊として守り、佇んでいるのではないか。
床は波打ち、液体のようであり、室内は茶系である。少女の血涙・・・長い時間の経過で鮮血が酸化し果てたのかもしれない。
桟敷席は地底のようでもあり水上でもあり、劇場(現世)を見下ろす天上でもある。現世の物理感覚の通用しない世界で少女は現世を覗き見、執着している。
少女の髪の長さはその時間の経過であり、少女は時間を遡っている女人かも知れない。この光景を夢想し描いた人物はこの画の手前にいる。この関係の断絶、行き来不能の時空である。
写真は『マグリット展』図録より