地球上のすべての動物の中で便器に排尿するのは人間だけである。他人に見せてはならない礼儀、約束・・・道徳上の観念。
 恥の排除、恥ずかしさを知ることこそが人間の条件の際たるものかもしれない。換言すると「人間の証明」でもある。

 この羞恥を鑑賞者の目の前に差し出した『泉』という作品、人間存在の根源を衝き開き直っているとさえ言える。肯定を促すが、否定されることは想定内だったに違いない。

 たとえ新品で舐めるようにきれいであっても、潔く舐める行為に及ぶ人はまずいない。美しく輝くような白い(小便器)であっても、触れることさえ躊躇の念がある。
 明らかに美しいかもしれないが、美の範疇に入れることには戸惑いがある。

「美とはなにか」美術品は無くても暮らせるが、便器は必要不可欠であり重要な価値を内在している。にもかかわらず、美という観念からは遠ざけられている。《不条理》、この隙間は何をもって埋めることができるか。

『泉』は観念を揺さぶる問題提議である。


 写真は『DUCHAMP』(ジャニス・ミンク) www.taschen.comより