『秘められたる音』
 修正レディ・メイド:ネジ留めされた真鍮版で挟まれた紐の玉
 
(動かすことによって音)という付記があるが、作品は静止状態にあり、動かせという指示もない。もちろん音は動くこと、あるいは物同士の接触によって出るものである。

 真鍮版に挟まれ紐に巻かれた玉の内部に秘められたる音があるというのだろうか。鑑賞者は耳を澄まし、音の予感を胸中に走らせるが無音を確信するだけである。

 防音という設備はあるが、仮にこの紐の玉の中に秘められたる音があったとして何の意味があるだろう。誰も感知することのない音である。
《秘められたる音》と指定したことで音を封じ込めたように錯覚する。無いものを有るようにすることが、言葉によって成立する。

 限りなく無に近いものとの対話である。


 写真は『DUCHAMP』(ジャニス・ミンク) www.taschen.comより