自転車の車輪、車輪ではなく自転車の車輪である。全体ではなく欠如の部分、これだけでは用途不明ながらくたに転落せざるを得ない代物である。
 それを白く塗られた丸椅子の上に鎮座させる奇怪。生産・消費という人間生活に無関係の行為は物理的流通を度外視した《精神》の領域であり、世間的な常識の範囲を大きく離脱している。

 視覚的に美しいと言えるかもしれないが、作品の前で感嘆の声をあげるレベルでもなくむしろ失笑を免れない構築(組み合わせ)である。

 まさかデュシャンがこの作品の鑑賞者に「考えよ!」という命題を差し出したとは考えにくいが、事実、考えることの極論がここにある。
 考えることの初めも終わりもない逡巡への挑戦。
 胸躍る肉迫がここにある。


 写真は『DUCHAMP』より(ジャニス・ミンク) www.taschen.com