悲壮感がある、決して楽しく愉快な景ではない。静謐であり喜怒哀楽の感情を表に出していない。
 耳は大きく立ちあがっている。情報(空気の振動/音や風)を緊張をもって収集する耳の態である。

 泳ぐ、すなわち地上の自由さはなく、地上へ向かうことのみに集中する行動のさ中である。
 浮いているのでなく、泳いで目的に向かっている態には、水の抵抗がある。水を振動させ前に進む犬に課せられた重圧を排除する行為(泳ぐ)を重ね繰り返していく。

 束縛であり、闘いである。
 時間は止まったままであるが、目的(対岸)への距離(空間)に要する時間が潜んでいる。いわば時間と空間を『泳ぐ犬』に被せた凝縮の形である。


 写真は『若林奮 飛葉と振動』展・図録より 神奈川県立近代美術館