
『旅行者用折り畳み品』
レディ・メイド:アンダーウッド社タイプライターのカバー
カバーというものは本体があってそれを被うためのものであるから、当然タイプライターというものを想起する。しかし、有るや無しやその事実は隠蔽されている。
有るかもしれないし、無いかもしれない。タイプライターそのものは折り畳むことは出来ないにもかかわらず、折り畳み品であるという。確かに畳むことができるが、そのときはタイプライターのカバーとしての本来の意味を失う。
しかも『旅行者用』とある、旅行をするのに折り畳まれたカバーは不要である。
なぜ、旅行者用と名付けたのか・・・。旅行、人生の旅行、人生は旅行のようなもの。その時間を記録するものに、書き物(タイプライター)というものがある。
人生の時間・歴史である「旅行」、わたしたちは旅人である。人はそれを忘れないために記録という手法をとる。
虚しかないだろうか・・・記録という存在者としての明確な証明、そんなものが要るだろうか。
書き記すことの、やがては無に帰す徒労を敢えてやめよう。書き記すことを包括するカバー(記憶)を胸に畳みさえすればいいのだ・・・と、デュシャンは呟く。
写真は『DUCHAMP』ジャニス・ミンク(www.taschen.com)より