『幕の宮殿』

 幕の宮殿、普通に考えると、幕で出来た宮殿ということになる。しかし通常幕と呼ばれるものが描かれてない。幕とは被うものであり仕切るための広く長い布を指すが、それらしいものがない。
 あるのは質素な板の床と飾りのない壁であり、立て掛けられた複数の変形パネル、否一枚かもしれない。
 無彩色の馬の鈴、雲の散在する淡青の空、奥行きの感じられない樹林(木と緑葉)の三枚には具体性があるが、それぞれのそばにあるほかの三枚は漆黒(大衆/国民)である。

 これらがどうして『幕の宮殿』であるのか。

 変形、切れ切れの馬の鈴(声、伝承、命令、支配…)、青空(淡い光・整列を感じさせる雲の並び)、緑葉(ひどく平面的である)・・・つまりどこか自然ではなく、人為的な翳りを暗示させてる。

 皇帝の住む宮殿の内実はこの程度の幕(仕切り/隔たり)でしかないのではないか。


(写真は国立新美術館『マグリット』展/図録より)