『大潮』

 干満の差が最大の時に起きる現象であるが、この作品を見て『大潮』は想起できない。
 海に起きる現象である。しかし、ここは海に関連する景色ではない。額縁の中は馬の鈴が雲の散在によって見え隠れする青空であり、それらはある規則に従っているような感じの並びである。次第に遠くなる雲(遠近だろうか)
 馬の鈴の方は垂直に上へ向かって並んでいるという風である。雲の並びは遠近法に、馬の鈴の方は垂直(平面)に並んでいるように錯覚してしまうということは、空間が二重
に交差する不思議な観を呈している。

 それに比して額縁の外は闇である。しかも額縁だけでは立脚不能であるものが垂直に立っているということは、額縁の裏には大きな石が額縁を支えているのだろうか。額縁の上方に見える石が浮いているとは考えにくい。

 交差する空間などあり得ないが、あたかも整列しているように馬の鈴(伝説、流言、言葉…)が置かれているのは、自然をも牛耳る強い主張(強引な支配)を感じる。
 その周囲の闇の暗澹は、世の中、大衆(国民)の置かれた世界かもしれない。

 この落差、最大の落差を『大潮』と称したに違いない。


(写真は国立新美術館『マグリット』展/図録より)