
記憶・・・かつての出来事を再び思い起こす情景だろうか。
若い女の石膏像(頭部)は精神を持たない物であり、記憶は作動しない。あえて石膏像にしたのは、《死》を暗示するためだと思われる。
空と海との境界も定かでない背景の暗澹とした空気は、彼女(頭部)の胸中(記憶の中)であり、白い顔面のこめかみから流れる鮮血は辛苦・苦渋・悔恨・無念などの感情ではないか。(少なくとも明るく楽しい記憶ではない)
板状の平面に置かれt石膏像の頭部、右には馬の鈴(言葉)、左には薔薇(愛情・情熱)が控えている。発することの出来ない言葉は純白(無根・無実)であり、届くことのない薔薇(愛慕)は諦念である。
深く傷ついた無念の想いは、神格化された石膏像のこめかみに赤い刻印を押している。消えることのない痛恨を、作者(マグリット)は悼み悲しんでいる。
(写真は国立新美術館『マグリット』展/図録より)