中央に描かれた建物(城)さえなければ、あり得る景色である。
 バラとコップを消しても、城に匹敵するほどの巨大な煉瓦(壁)は考えにくい。
 城の入口に比してコップの巨大さはあり得ない。

 バランスが悪いというレベルではない、鑑賞者の概念が崩壊しストレスが生じる。
 強引な並置は鑑賞者の心理を揺さぶり、大いなる拒否感を惹き起こす。

 わたし達は、城やコップやバラ、壁や地上や天空についての概念を学習している。
 このアンバランスは明らかに視覚を襲う《暴力》である。

『手の力』、表現には概念を破壊させる暴力的な力がある、その証明である。描くこと、静かなる描写に潜む過激な狂暴。
 この画の前を通り過ぎるとき、胸騒ぎの狂想曲を聴く。「手の力」には《大いなる自由》があると。


(写真は国立新美術館『マグリット』展/図録より)