『手の力』

 わたし達には経験値で図られた概念がある。物質にはおよそ定められた使用目的による大きさの限度があり、それ以上でもそれ以下でもない範囲がある。
 だから城やコップやバラがそれぞれ異なる大きさで石壁の上に並列されているのを見るとき、少なからず混迷に陥ってしまう。
 何が基準になってるのか、その判定を下すことは難しい。なぜなら個々の物はそれ自体特有の形態を崩していないからである。
 唯一絶対の基準は《水平線》であるが、その距離が個々の物の大きさを凌駕するので、一つ一つの物に対しては自然であるのに対し、個々の物を至近に並置した場合奇怪な現象を引き起し、概念を崩壊させてしまうのである。

『手の力』、表現の自由は、世界観(概念)を覆す。
 手をつかさどるのは精神(脳)であり、物質界は精神界によって錯誤を変換可能とする。手(表現方法)は、世界を変える可能性を秘めている。まだまだ追及を究めることができるという抱負、自負がこの作品には感じられ、マグリットの毅然とした姿勢が垣間見えてくる。


(写真は国立新美術館『マグリット』展/図録より)