『空気の平原』

 空気…気体に平原などということがあるだろうか。重みがあるから上空は薄くなり外気圏へと移行するが、その境界が平原だとは聞いていない。針の孔ほどの隙間にも侵入するものであり、物質間を埋める見えないものが空気である。

 その見えないものの平原は、有り得ない。
 岩地(荒地)に一本の樹が聳え立っているが、よく見るまでもなくわたし達が知っている樹形ではなく、一葉の巨大化したものが樹に見える状況に置かれ、それを一本の樹だという認識に強いている。
 遠く重なる山稜が霞んで見え、空は微妙に暗雲が垂れ込めつつある状況。樹のある根本あたりの岩地は確かに平らかであるが、この部分を以って平原とは言い難い。 
 巨大化した一葉の葉は質的変換を施されておりヒビが入っている。植物の条件を外され、何物かであるという確定も不明なままの対象物は、《樹のような一葉》という怪奇な物として落着される。

 要するに条理を外した、絶対100%あり得ない物としての対象物である。
 故に、空気の平原なども、絶対100%あり得ないものであるという主張が潜在しているのではないか。

 しかし、《物質界ではあり得ないことが、精神界ではまかり通る》
『空気の平原』と言えば、空気の平原であるという主張は否定されるべきものではない!

『空気の平原』とは、表現の自由であり、精神の開放である。


(写真は国立新美術館『マグリット』展/図録より