漆黒の闇の中から光ある外の景色を見ている。何もない岩窟である。
 原始人が・・・いやいや現代人が・・・。
 この光景には原初からの時間が流れている、未来までは確定できないが、人間の生きてきた膨大な時間が潜んでいる。

 見ること、視覚の実験的ファイルである。
 A・これは山稜である。
 B・これは鷲が翼を広げ、今まさに飛び立とうとしている図である。
 C・これは鷲が翼を広げた映像に酷似した山稜である。
 事実はAであるが、鷲の情報を知り得ている者にはBとしての感動を覚える。しかし、よく見るまでもなく、鷲が翼を広げたように見える山稜であることは明白である。

 知覚作用は心理の影響を受けるざるを得ない。眼は物理的状況を把握するが、同時に心理的情況が大きく映像の質を変換させてしまうことは少なくない。

 対象を見ることには、経験した情報(データ)が加味されるという暗黙のルールが潜んでいる。その兆しは決して前に出ることはないが、排除することも困難である。


(写真は国立新美術館『マグリット』展/図録より)