
宙に浮く球体である、つまり重力から解放されている。
精神の在り様は、このような深淵の闇の中、うっすらと水平線を照らす光彩が見える世界に位置している。その水平線は地球(存在)における動かしがたい真実を提示している。
微かに波立ってはいるが、平穏・静寂の態である。この無窮とも言える時空の中でわたし(マグリット)は思考し続けている旅人である。旅人の所以は定着の思考に束縛されないという点にあるが、生きて在ることの誇り(尊厳)、吹奏楽器(音/聴覚)・鏡(視覚)・酒樽(味覚)・トルソ(触覚)・緑葉(嗅覚)そして、ミシン(衣)麻袋(食)など必要十分な条件を備えている。
しかし、衣食住の住、心の棲家を虚空に押し上げている。外界に左右されることのない固有の論理、秘密裏に告白・吐露せざるを得ない個人的な事情、しかし永遠に変わることのない真理へと直進すべく苦悩している。捨てきれない観念と捨てるべき観念の狭間で揺れ動いている。
わたくし(マグリット)は、結論・明確な答えを探求し続ける『旅人』である。
(写真は新国立美術館『マグリット』展/図録より)