濃い緑の床面や背後の海面は、自然(現世/ありのまま)を、壁面天井の灰色は疑惑・疑念を暗示しているのかもしれない。
 石を埋めた壁面は永遠に変わらないと思われる《固定観念》の象徴であり、中に散在する肉体の切れ切れは苦悶/苦悩に相当するのではないか。
(リアルな部分と不可解に変形された部分は離反するものでなく一体である)

 常人には行い難い身軽な身体運動、熟練の身体運動を為す軽業師。
 常人には考えつかない奇異な描写(心象)、熟慮した上での表現活動を旨とするわたくし(マグリット)の仕事は軽業師に似ている。

 軽業師の仕事は瞬時、短時間のうちに終了するが、わたしの仕事は休みがない。しかし、この石のように硬い観念のなかに(母恋い)を隠したテーマと共にしばしの休息を取ろうと思う。
 秘かな理解しがたい軽業師であるわたくしの休息であります。


(写真は新国立美術館『マグリット』展/図録より)