深淵の花と称するものは茎が不明である、要するに花という組織の体を成しておらず、また浮遊状態にある。つまりは重力の否定、精神界に咲く花として何かの象徴を暗示している。象徴というより、精神の闇、暗部…であり、有ると思えば在り、無いと思えば空無の領域にあるものである。
 噂の花といった類をも含めた精神界の淀みであり、唯一否定しがたい真実でもある。

 馬の鈴に似た球体、正しく球体であれば、それは永遠の真実でり究極の美であるが、口を開くかのような亀裂がある。その亀裂・割れ目こそが人間界の曖昧さを示すものであり、真実を含めた伝達という手段の開口である。

 切れ切れの集合体が花を騙っている異様さは、各個人の中にある花であり、世界全体の中の花である。
 歴史・伝説・噂の流布・隠れた真実etc、玉石混合の寄せ集められた、しかし深い眠りの底に沈められた幻視の花である。


(写真は新国立美術館『マグリット』展/図録より)