『冒険の衣服』

 衣服と言いながら着衣のない裸婦が横たわっている。両手を上空に掲げ眼は瞑っている。(死人ではないということである)
 被りの布は膝下まで延び頭部から身体の右半分を被っている。(これは何を意味するのだろう)
 明らかに女性のシルエットだと思うが、胸と陰部は隠れて見えない、というか隠している。右手は女性のようであるが、左手の上腕は多少筋肉質ではないか。左右の足にも微妙な差異がある。

 状況設定はオサガメを泳がせることで《海底》を暗示し、床面は幾層にもなった地層を暗示している。つまり、時間の集積(歴史)の上にあるということであり、過去なのか未来なのかを断定できない時空にある。

 抵触するかのオサガメは鋭利な刃のような皮膚に描かれており、柔らかい裸体は損傷の危機を想起させる。
 全体のどかなムードが漂うが、触発の危機は静かに漂っている。しかし、眼を閉じた裸体はきわめて平静である。この不思議な空間をもって『冒険の衣服』とタイトルしている。平穏さは保たれるだろうか…肉食のオサガメ(危険)は、このまま通り過ぎていくだろうか。

 生命の危機、裸体の勝利、成功率はきわめて低い。


(写真は新国立美術館『マグリット』展/図録より)