《3.25メートルのクロバエの羽》

 クロバエを解体し、その羽らしきものを超拡大したものらしい。それをことあろうか鉄板に転写した図のようである。
 本物のクロバエとクロバエの羽と名付けられた作品を結び付ける要素は、名付けられたという以外に見出せない。見いだせないが、名付けられたことである種の決定を促す。
「これが3.25メートルのクロバエの羽である」と。
 異常なほどの拡大である、すでにクロバエの要素を失い形骸化されたそれらしい線描の固定を呆然と見るしかなく、納得には時間を要した上に、強制に近いものを感じてしまう。

 飛翔するクロバエの羽は羽自体に飛翔の力はないが、その形態に飛翔の秘密は隠されている。しかし、クロバエの羽を模した平面に描かれた巨大化した線描(3.25m)は、もはや妄想の域である。しかも《飛翔》など絶対に有り得ない地上に押し固められた形状を提示している。

 この提示は何を意味しているのだろう。飛ぶという驚異への崇拝を、静謐な形にしたモニュメントとも思える。この作品の上に数多のクロバエが集合し泣くだろうか。

《飛翔への敬意》、空気(電場・電磁波・赤外線・紫外線など)を振動させる大いなる小さな生物への哀悼かもしれない。


 (写真は神奈川県立近代美術館(若林奮『飛葉と振動』展・図録より)