
『自分自身が目前の空間を測る為の模型Ⅲ』
《目前の空間を測る》などという難問を聞いたことがない。人は見えるものによってしか位置関係を測れないと信じているからで、空気が何によってできているのかを問い詰めないのと同じである。
確かに空気は見えないが、窒素や酸素その他の複合的な成分(元素)によって成り立っている。しかし、銅板の遮蔽や均一でありながら不穏な動きをする刻み込まれた線条があるとは思えない。
思えないが、その空気を質量をもった物に置換し、心的印象を具象化するという試みである。その向こうには犬の存在がある。
(自分のほうへ向かう犬)と(自分)との対峙、その間に流れる空気を全て物質に置き換える、世界の位相を変換させる。存在の変転…目前の空間に対する時空の変移を感じ取るという感覚(触感)の響き合いを異相の風景として提示している。
自分自身の下半身が地下に沈み込んでいる感覚も凝視においては消失している。不思議な幻であり、超リアルな出現である。
(写真は横須賀美術館『若林奮VALLEYS』より)