『旅行者用折り畳み品』

 旅行者用、つまりコンパクトってことね、と思って見ると、タイプライターのカバーが提示されている。中の本体は見えないが、旅行にタイプライターを持参する人はまずいない。筆記具(ペン一本)あれば用が足りるから・・・。
 不必要に重い、カバーだけなら何の役にも立たず、折り畳んでなど、むしろ滑稽である。

 このバカバカしさ、空漠とした空気感、笑止…真面目に差し出すことの無意味。
 デュシャンは《無意味》を追及している。
 言葉や物の持つ意味を言葉や物を通して無意味に帰している。言語による説明はもちろん無い。説明すれば、意味を浮上させるだけだからである。

 秘めた空気感を鑑賞者は読取り、納得して肯き、静かに立ち去る。
 作家(デュシャン)には、大いなる肯定(ファインプレー)であると、見えない合図を送りたい。


(写真は『DUCHAMP』TASCHENより)