『影』

 木とパイプである。
 ①手前にある木を主眼に置くとパイプは巨大なものになるが、仮にパイプを通常の規格に考えると木は非常に小さくなり、相対的な比較は困難である。
 ②草木一本、石ころ一つない地面は水面のように見えるが、水面だとしたら木やパイプがあたかも地上にあるような在り方をしているのは逆に不自然であり、浮いている形状ではない。
 ③空がオレンジから暗色に映っていくのも妙である。
 ④木はシルエット(二次元)パイプは立体(三次元)というのはあり得ない景である。
 ⑤『影』というタイトルではあるが、陰の存在が希薄である。

 どう見ても、見たことのない風景であり、有り得ない非現実的な景に他ならない。水面に木が茂り、巨大な(想定外の)パイプが水上に浮かぶ…重力の否定であり、空間の在り様を外している。
 いわば、全否定である。

 『影』 The Shades は、影つまり『黄泉の国』という意味ではないか。


(写真は国立新美術館『マグリット』展・図録より)