『傑作あるいは地平線の神秘』

 ①三人の男は、同一(一人)の男の分解ともいえる。
 ②それぞれの頭上には三日月があるが、三日月の南中は見えない。
 ③地平線上に街の屋根の形が鮮明に見えることはあり得ない。街の屋根は少なくとも地平線よりはるか手前に見えるはずのものだからである。
 ④真昼間の光景でありながら、街の屋根などの光景は夕暮れのような不鮮明さである。
 ⑤月が三つ並んで現出している光景はない。

 同時刻(同条件)の三つの時空が並列することは物理的にあり得ないが、精神的な自由(妄想/虚偽)としての肯定はあり得るかもしれない。
 地球を三体並ばせ、それを切り張りした光景の巨大さを、一個人の中に収めるという暴挙である。

 物理的空間には限りがあるが、精神的空間には途方もない企てを許容する無限があることの証明である。


(写真は国立新美術館『マグリット』展・図録より)