
『ピレネーの城』
海上に浮かぶ巨岩石、その頂上に、やはり岩でできた(石化した)城が聳えている。背景は白雲の散在する自然の青空である。
この作品に対面した時の印象は、とりもなおさず(恐怖・不安)の不安定な驚愕である。巨岩石は通常落下するものだし、視点は水平線上(遥か下)にあるから、この状況の再復元、追体験には不思議さと共にとんでもないエネルギーを強要される。
きわめて静謐な空気感を醸し出しているが、重力圏内においては恐怖以外の何物でもなく、この大事件発生は、大いなる不条理の具現と言わねばならない。
石化した死の城は過去の栄光であり、地上からは決して見えない幻である。
この光景は、物理的解釈で否定したり精神的な感想を云々するということを超えている。
解釈を寄せ付けない緊密かつ解放された空気感による一つの《詩》である。
(写真は国立新美術館『マグリット』展・図録より)