『ガラスの鍵』

 人が住めず登攀も許されないような禁断の山の山稜に巨岩石が乗っている。あり得ない光景である。
 山頂より高所に巨岩石が出現する現象はなく、天上からの落下しか考えられないが、隕石でもなく接する山に同質であり、衝撃痕もなくただ在るように在るという風情である。

 この光景をもって『ガラスの鍵』と名づく、その根拠は何だろう。
 鍵穴にガラスの鍵を差し込めば破損は免れない、有るかもしれないが、無いに等しい幻、幻想の産物である。

 万軍の主はこう言われる
 「わたしは初めであり、わたしは終わりである。わたしのほかに神はない。(略)わたしのほかに神はあるか。わたしのほかに岩はない。~」(『イザヤ書』より)

 この恐れを抱かせる驚愕の光景。近づくこともできず、ひたすら崇め祈るしかない幻の奇跡を実際に拝観することは叶うべくもない。
 この神秘を解き明かそうとする者の鍵はすべてガラスに過ぎない。


(写真は国立新美術館『マグリット』展・図録より)