
『幕の宮殿』
「宮殿の幕」ではなく『幕の宮殿』である。
床面は水平だが、上部はすべて変形であり歪んでいるパネルが壁面に寄りかかるのではなく、垂直に立っている。
漆黒の三面、鈴(言葉)、白雲の散在する青空、緑なす林の各面・・・それぞれはフレームに納まり、淡い単色の床や壁を持つ室内に置かれている。ただそれきり。
これが『幕の宮殿』であるという。
宮殿とは、一般に君主や神のおわす御殿・神殿を指す。要するに大衆、世間一般とは隔絶された場所である。
鈴(言葉/主張)を暗黒面が遮り、雲の散在する青空(天空)も暗黒面が前後で抑えて(抑圧)いる。緑なす林(大地/地上)だけは鈴(言葉)や青空(天空/宇宙)より低いが、前面にせり出している。
この配列に意味を見出そうとするなら、《人の手による室内(世界)において、地上は我が物であり、天空や鈴(主張・叫び)は否定されている》ということではないか。そして、それらは歪んだ見方であり見せかけに過ぎない。何故なら平板なパネルが垂直に林立することなどあり得ない現象であるのと同じことだからである。
真実を遮蔽した『幕の宮殿』への質疑は、本来豪奢であるべき設えもなく、質実・簡素な場面での応答に置換されている。
『幕の宮殿』とは、幕(遮蔽)で出来た宮殿であり、幕は歪んだ固定観念による粗末な代物に過ぎないという皮肉が込められているのではないか。どこの宮殿のことであるかは知る由もない。
(写真は国立新美術館『マグリット』展・図録より)