『美しい言葉』

 美しい言葉、美辞麗句には片腹痛いような嘘が含まれていることが多いが、バラは確かに美しい容姿・美しい香りを有し、見る人を魅了する。
 バラは言葉を放つことはないが、その秀麗な美しさで人の胸を打ち感動を伝える。
 言葉が意思伝達のツールだとしたら、立派にその媒介の役目を果たしている。

 この絵では、蒸気の形をとりもう一つのバラの形を見せている。もちろん有り得ない現象であるが、見えない形を想起するイメージという作用を人は無意識理に抱く。《無い、けれども有る》のである。
 バラに対する感想は、バラ以上の膨らみをもって鑑賞者を刺激する、要するに《もう一つのバラ》であり、自分の中の想いのバラである。
 バラの妖気・香気は、自分の中の《美》へと誘い込む。
(バラはバラである)だけなのに触発された幻想は掴みどころのないイメージとして、もう一つのバラを生み出す。美への興奮、美への憧憬である。
 確かにバラは、淡く美しい言葉を放っているかもしれない。しかし、それは三日月の南中が見えないのと同じように《有るけれど、見えない》ものである。


(写真は国立新美術館『マグリット』展・図録より)