
『会話術』
Espanaの線描が水面と陸を隔てている、というか交錯している。ずっと向こうには建屋が並ぶ人々の街が見え、その向こうには連峰が淡く連なっている。水面の線描(E)はそれらの後景を超え、空にまで延び、空間の理を壊している。
そして手前にはクラシカルな柱が左右にあるが、これは闘牛場の建屋の一部であり、描かれていない手前には大勢の観客の眼差しがあると推測される。頭に突き刺さった剣、瀕死の牛は衆目の的である。
牛は首をもたげ、こちら(観客)を恨めしく見返すかのようである。
風景の混濁した世界、まさに不条理である。同じ生物でありながら優位と劣勢の立場に別れ、片や死へと追いやられる運命。
ここに会話は成立せず、告発がなされることもない。
大衆の拍手や歓声を遠く薄れる意識の中で聞く憤懣や口惜しさは、彼らに届かない。
意思疎通(会話術)は遮断され絶命を余儀なくされる不条理、空論、無常の響きで世界の条理を刻み込んでいる。
(写真は国立新美術館『マグリット』展・図録より)