『快楽』

 レースのついた純白の大きな襟や袖口は少女の装いである。その少女が口にしているものを見ると絶句せざるを得ないが鳥の生肉である。
 非情・残酷・野生…原始、未開人の態は、美しい着衣の文明人のお嬢さんとは思えない。
 背後の木にはには四羽の鳥がその少女に顔を背けて止まっているが、眼差しは少女を伺うふうでもある。少女が食らう鳥の身内かもしれない。
 少女の眼差しは虚ろに何かを確かめているような、不安と確信が交錯する不安定な情念を感じさせる。

 四羽の鳥は、同類を食われているにもかかわらず攻撃することもなく静かに、そして背後に回り直視することもない。

 これは儀式ではないか。おぞましくも生肉を食らうという少女の恐怖体験。
 しかし、『快楽』というタイトルである、喜び?いずれ喜びに変移するということだろか。
 処女喪失、婚礼の儀であり、四羽の鳥はカップルの両親たちではないか。心配そうに危惧する親たちの挙動である。
 男が女をというのではなく、女が男(ここでは鳥になっているが)を襲うという逞しくも原始的な構図を暗示している。
 マグリットは、(男より女は強いかも…否、平等である)という主張を貫いている。


(写真は国立新美術館『マグリット』展・図録より)