
『禁じられた書物』
書物というタイトルではあるが、本は見えない。階段のある室内、指の上に描かれた馬の鈴、もしくはそれをiと読ませてIrene、またはSirene(人魚)を浮かび上がらせた、フラットな床面と装飾のない壁面のみの室内である。
以上の条件をもって『禁じられた書物』と題した意図はどこにあるのだろう。
まずイレーヌを指して居り、それは人魚だとも意味を重複させている。人魚、足を持たず陸に上がれぬまま淋しく歌を口ずさむ孤独な姫、あるいは女王。
そのイレーヌの指は第一関節が欠如しているのでは?確かに第一関節の窪みは第二関節のそれより薄いけれど、爪からの長さ(間隔)を推しても奇妙である。(第一関節のみなのは親指だけであるが、親指とは思えない)
指の上方に浮く馬の鈴は、言葉・主張・噂・風評などの暗示であれば、イレーヌの主張、言説を浮上させているのではないか。
目的のない飾り階段、フラットで何の変哲もない床面や壁面の無表情。
《無味乾燥》、声高の主張、それは訊くに値しない不具合(陳腐)がある=禁じられているも同然の書物に等しいと、それとなく揶揄しているのではないか。
(写真は国立新美術館『マグリット』展・図録より)