
『天才の顔』
眼を瞑り口を閉じている白い石膏の面は、細長い板の上に乗っている。その板の刻みは何を現わしているのだろう。どこで生じ、どこへ行こうとしているのだろう。
この細い板状の下の淀みは気流なのか水流なのかも不明である。
板の上には『天才の顔』の前後に黒いビルボケが立っている。ビルボケを死者の魂と把握するならば、『天才の顔』も霊界の領域に共存しているということである。そしてこの細い板状のものは浮遊しているのだろうか、現世における重力界の律には当てはまらない。
暗黒ではあるが、光は板の側面に向かい射している。
黒いビルボケ(擬人)が枝葉を伸ばしているということは蘇り(復活)を暗示しているのだろうか、あくまで霊界においての再生ということか。板の刻みは人為的な切り口であり、観念(時間など)を暗示しているのかもしれない。
白いマスク(『天才の顔』)には、右目と左頬が欠けている。
もしあなたの右の目が罪を犯させるなら、それを抜き出して捨てなさい。(略)もし、だれかがあなたの右の頬を打つなら、ほかの頬をも向けてやりなさい。(マタイによる福音書5章より)
と、いうことだろうか。であるならば、『天才の顔』はイエス様ということになり、死者たちと同列で霊界に生きておられるということになる。
いかなる困苦にも平然と向かう人、それが天才である。
(写真は国立新美術館『マグリット』展・図録より)