『彼は語らない』

 白い仮面、口はつぐんでいるが紅を差した唇だけが生気を帯びている。
 背後の壁面には正確に間隔をあけた点描があり、《彼)と《女あるいは男(現世の人間)》との境界にあるのか…、これは《時間/観念》の暗示だと思う。
 《彼》と《人間》の境には円形の仕切り板があり隔絶されているが、繋がる空間をも認められる。その背後には板状の壁があるが、空の様な空白(空間)との前後関係は不明である。

 この混在の空間を突きさすパイプがどこまで延びていくのかは不明であるが、《彼》の所有する空間で折れ曲がっている。この直角に折り下げたパイプが始まりなのか終わりなのかを知る術がない。

 我はαにしてΩである。
 最初であり最後である。初めであり、終わりである。(黙示録22章13節)

 ということなのだろうか。たしかに《彼》は語らず、声として伝わるのみである。そして現世・来世をも支配するかに見える存在に違いない。


(写真は国立新美術館『マグリット』展・図録より)