『泉』

 便器(小便器)の提示である。
 圧倒的なインパクトゆえに、目を逸らし、違和感を感じざるを得ない作品。

「これが、何なんだろう?」
 生活の要、生きることの基本。
 排尿なしに生きることは不可能であり、《生きることは排泄すること》であるという逆説的な見解。
 白く美しい陶器であり未使用に違いないけれど、触ることさえ憚れ、厭わしく感じてしまう便器という周知の対象物。

 この作品提示の意味はどこにあるのだろう。
 ズバリ、万人における《生理への問いであり答》である。隠蔽(秘密)したい恥ずべき行為のベールを暴力的に引き剥がして見せている。
 日常的に使用する便器に抱く感想、必須の物でありながら衆目の下に曝すべきではないという最大の振り幅を持つ心理的距離間。

『泉』は鑑賞者の心理的距離間(空間)を図る試薬であり、本質的な問いである。


(写真は『DUCHAMP』TASCHENより)