
『チョコレート粉砕機』
チョコレート粉砕機を模した(ヒントを得た)チョコレート粉砕機ではない物である。
チョコレート粉砕機は有用な機械であるが、この絵のチョコレート粉砕機は無用の図形に過ぎない。欠陥だらけという前に存在自体すら危うい構成を敢えて成している。
機械は床面に設置されているという思い込みがあるが、心棒によって吊り下げられている可能性もなくはない。
三つのローラーは中心が持ち上がり外部へずり落ちていく感があり、回る(回転)ようでいて、回ることを可能にしない機械である。
タイトルを見た後に絵を見ると、一見『チョコレート粉砕機』に見えるが、『非・チョコレート粉砕機』である。
この絵において、円板やローラは回り心棒は支える、という概念が先行する。しかし、よく見るまでもなく、形を留めることさえ困難な構成であることが分かる。
(イメージさせるべきタイトル)と(イメージを崩壊させている作品)を結びつけている。
ここにあるのは(疑惑と落差の心象)である。心理的な亀裂をまさに写実的に甘受させる仕組みがここにある。
狙いは《見えないものの写実》であって、見えているものは虚偽であるという逆説である。
(写真は『DUCHAMP』TASCHENより)