『ローズ・セラヴィよ、何故くしゃみをしない?』

 デュシャンが引き受けた兄妹間のプレゼントであるが、そこにあるべき《喜びや満足感》がない。この無機質の集合から前向きの感情が湧き出てこないばかりか、無表情ゆえの腹立たしささえ感じる。プレゼントという愛情・好意の仲介を見ることができない。

 角砂糖型の大理石・イカの甲・温度計・鳥かごなどは、人の一生よりは永続的であり、極めて普遍に近いものの選択である。(温度計は破損するかもしれないが、ガラスや水銀はその質を変えることはない)
 
 万人が首を傾げ、しかも喜ばず、持てば想定外の重さがある。心外であり、ストレスになるような代物に価値を見いだせない。この物にあるのは《困惑》である。

《人生とはこのような見掛け倒しの重荷・不条理に満ちている。受理するに困難なほどの虚しい問題もある》兄から妹への大いなる教訓…デュシャンの達観の境地である。


(写真は『DUCHAMP』TASCHENより)