『魔術師の共犯者たち』

 この絵の中にどこに共犯者たち(不特定多数)がいるのだろうか、と疑問に思うほどに、一人の女の裸体(あるいは二人?)があるのみである。
 魔術によって一人の女が切断され、しかも距離を置いて分解されているという魔術なのだろうか。物理的に無理なことも精神界では可能である。
 (心象)心理的な構築として捉えた世界の展開は、その真意を語ろうとしない。

 この現場の重い闇に包まれた状況に一人の女の胸から下を赤い網に被われた裸体があり、その手前に肩から上の頭部が見える。双方とも見えない部分は筒に隠蔽されている。

 胸や恥部を露わにした女体を被う赤い網状のものは脈々と流れる血液を暗示している、すなわち《生》である。
 肩(腕)から上の頭部は、それ(肉体)を支配する脳であり、精神の指令がそこにある。

 心と肉体を操る《魔術》は、天の差し金かもしれない。
 その魔術に翻弄される《男と女》こそ、その魔術師の共犯者たちであるに違いない。


(写真は『マグリット』西村書店より)