『夕べの徴』
黒い山の峰から覗く残光に対して手前の彩色された対象物に射す光は左側からである。光源(太陽)が二つあることはあり得ないので、この景は分断というよりは全くの異世界である。
少し傾いだ赤いフレーム、中のカヴァーは四方に裂けているが、平面に戻ることのない不可逆を暗示しているのかもしれない。
フレームの中の球体と波板の上の球体はリンクしているように見えるのは、波板の上の球体はフレームの中から飛び出したように印象があるからで、球体という等しい形態は精神(魂)の具象化かもしれない。
波板の1つの球体は今しも落下を余儀なくされ、行方知らずになるような予感を秘めている。一方フレームの中の3つの球体は波板(外)へ出ることを裂けて巻かれたカヴァーによって阻まれている。
亡母を追う3人の子供(とりわけ大きいのはマグリット)、中央に立つ樹木は父かもしれない。現世と冥府の中間点(入口)を立脚不能な不安定極まるフレームに仮象した景が浮上する。
総ては根拠のない空想世界であるがゆえに、手前の対象物には存在感を示すものが欠如している。
(母恋い)誰も自分の絵を解釈するなという厳命。マグリットの作品に共通する哀愁の要因はここにあるのかもしれない。