
『各階に水とガス』
ロベール・ルベル著『デュシャン伝』の表紙に取り付けられたエナメル版。
各階に水とガス・・・19世紀のフランスのアパートに取り付けられたエナメルの看板の模造ということである。
おそらく最新の設備というキャッチフレーズだと思うが、なぜそれがデュシャンを象徴するような言葉であったかが問題である。
水とガス、水は三態の変化を余儀なくされるが、空中にも気体(水蒸気)として存在するし、ガスは当然気体という意味だから、水もガスも当たり前にどこにも存在している。(もちろん当時のフランスのアパートの室内にも)
すでに存在しているものをことさら「有ります」と明記するのは、存在の形態や種類が異なるということである。
同質のものが、文明の進化により、在るがままの形を有効手段に変換される。下に落ちるしかない水を各階という上方へ押し上げる技術、高圧の気体や液化ガスを貯蔵するボンベを備えるという技術によって、『水とガス』は、ただの「水とガス」ではなくなっている。
つまり、「水とガス」は二つのイメージが重複する。持ち続けた概念は否定され、新しい現存が概念を修復、塗り替えていく。
水とガスに対する概念が二重の意味をもって存在することに、《言葉と実存》の振幅を見出したデュシャンへの表敬としての『各階に水とガス』である。
(写真は『DUCHAMP』TASCHENより)