『折れた腕の前に』

 折れた腕の前に《雪かきシャベル》があっても、有効とはならず、ただ在るだけの存在と化す。

 これを作品として見ている鑑賞者は《作品・レディ・メイドの雪かきシャベル》と《鑑賞者自身》の間に《見えない他者/折れた腕を持つ者》の存在を見ることになる。

 雪かきシャベルは、『折れた腕の前に』というタイトル(言葉)を以て《見えない存在者》を見せる構造を有している。無いが在るのである。
 雪かきシャベル自体は空無ではなく実用性を有した器具であることは間違いないのに、タイトル『折れた腕の前に』というタイトルとの競合のために、鑑賞者との間の空間に《空無であるが存在している者》を立たせる妙を生み出している。


(写真は『DUCHAMP』TASCHENより)