
『大家族』
水平線ギリギリに羽を広げ飛ぶ鳥(尾ひれは水面についているようだけど、足は着いていない)。
そのシルエットには雲の散在する青空が描かれている。背景はちょっと見たことのないような不気味な空を呈している。
静かな水平線、夜明けの感じもあるが、波は相当に高い振幅がある。
この光景を『大家族』と称している。
ノアはまた地のおもてから、水がひいたかどうかを見ようと、彼の所から、はとを放ったが、はとは足の裏をとどめるところがみつからなかったので、箱舟のノアのもとに帰ってきた。水がまだ全地のおもてにあったからである。彼は手を伸べて、これを捕え、箱舟の中の彼のもとに引き入れた。それから七日待って、再び鳩を箱舟から放った。はとは夕方になって彼のもとに帰ってきた。見ると、そのくちばしには、オリブの若葉があった。ノアは地から水がひいたのを知った。(略)この時、神はノアに言われた、「あなたは、共にいる肉なるすべての生き物、すなわち鳥と家畜と、地のすべての這うものを連れて出て、これらのものが地に群がり、地の上にふえ広がるようにしなさい」。(創世記・第八章より)
これはその《はと》ではないか。
はとの足が地に着き、オリブの葉をくわえ帰ったときから、地上に生き物が増え拡がったとされるこの伝説をイメージしたものだと思う。
鳥は、淀みある空に羽を広げていおり、シルエットは《空》である。鳥は、ただありのままの空を孕みつつ飛んでいるだけであるが、その鳥に被せたイメージはとてつもなく重い『大家族』の始まりという虚構だったのかもしれない。
(写真は国立新美術館『マグリット』展・図録より)