
『影』
パイプと樹(シルエット)、それぞれの下に細い影があるが、空は上にいくにしたがって暗色であり、むしろ地平線(水平線)近くが赤みを帯びた明色である。
樹は地上に立つという物理的見地から地上であると思いたいが、この青は水面のように見える。水面に生える樹(シルエット/幻)などはあり得ない
全てが理に外れている。
上から差す光による影であるのに上空は暗色である。
明色の辺りからの影であれば手前にできるはずである。
パイプが樹の大きさに匹敵するとは考えにくい。
パイプは立体であるのに樹はシルエットである。
∴大いなる矛盾の交錯した奇想な空間のコラボである。
影は光を遮った物の背後にできる黒い形であるが、その物理的条件をことごとく外した現象をもって『影』と題している。
心象、面影、幻影・・・精神界の光景、イメージとはあらゆる物理的条件から解放された世界であり、それは現実(実在)に対する『影』である。
(写真は国立新美術館『マグリット』展・図録より)