
『同族意識』
魚が直立しているが、魚としての生態運動にこのようなポーズはない。
水平線の手前に球体があり、その近くに二人の人影がある。
水平線は物理的真理であり、球体は精神的真理を具象化したものだと思う。
遠く見える二人(物理的現実)は永遠普遍の真理の前では粒子のような存在であり、直立の魚(精神的な意図)も大きく見えるが海洋という拡がりのなかでは単なる一存在に過ぎない。
魚の直立は虚偽として懐疑されるべき仮定の提示であり、球体もまた真理の抽象化ゆえに非存在物である。
二人の人間と水平線(海洋)は実在の現象である。
この対比の混在、存在と非存在の共存、換言すれば《矛盾・不条理》の光景は非理性的であるとして否定されるべきものであるが、一元化(同族/Family)として肯定する《自由》もあるのではないかと、詩情をもって密やかに提示している。
(写真は国立新美術館『マグリット』展・図録より)