
『会話術』
石を重ねて意味を表した文字列が、聳えるような高さで立っている。人の視線はごく下方にあり、この意味を有した岩石は威圧的でさえある。もちろん、この石積みは人為的なものであり自然の風化などではない。
会話術とは相手があって成り立つ方法であり、その術がこの画面にあるという。会話に不可欠な条件…意思の疎通は身体で表明することから始まり、言語という手段に至っている。曖昧さが削除されたはずの会話術は怖ろしいまでに強大な脅威と化しているのかもしれない。
会話術に必須な言語は、人類の英知によって完成されたものであるが、その範囲は独特の地域性を持ちワールドワイドというわけにはいかない。
『会話術』の画面には『REVE/夢』と読める石積みが為されている。夢とは夢想、現実ではない経験、あるいはそうありたいという願いの精神現象である。
『会話術』の夢が古代の夢なのか、あるいはずっと時を経た未来における回想なのかを知る術はない。会話術、世界の混沌…そうしたもの全てが、いつか墓標のように地上に立つ日があるかもしれないという幻想かもしれない。
(写真は国立新美術館『マグリット』展・図録より)