
『占い』
建屋の開口部から見えるのは海岸線(砂地?)、海と船、暗雲垂れこめた空。そして中央に人間の鼻のみが鎮座し、背後には一葉に模した樹が立っている。
鼻という部位が生き物のように立っている、即ち、あり得ない光景である。
この描かれた空間を『占い』と称しているが、占いとは今後の吉凶を予想し、将来を予言することである。ここに答えがあるというのだろうか…。
ここにあるのは運命とは無縁の単なる《物》であり、あり得ないイメージ=共通の想起を促さない物である。
要するに、占いに対する《否定》であり、でたらめであることの主張と言えるのではないか。
占いの対象とする時空は《未来》である。誰も踏み入れたことのない時空をイメージし、提言する。
垂れこめた暗雲は、どこか不吉を兆す。思い込みに過ぎないが…。
巨大な鼻(臭覚)に予知能力を見いだせないが、拒否につながる圧迫を感じる。
背後の一葉を模した樹は、明らかに嘘/虚偽の象徴でもある。砂地(あるいは岩石)に育つ樹はない。
「巨大な鼻の前で、あなたは何を感じますか?」
『占い』とは、彼方の水平線の真理に比して、不確実で噴飯物のイメージに過ぎない。
マグリットの自嘲である。
(写真は国立新美術館『マグリット』展・図録より)