
『3つの停止原基』
糸が描く曲線に沿って削られた細長い木製版それぞれにガラス版(図版・注より)
要するに偶然を形に留めたものである。すべての始まりは偶然だったかもしれないが、基準を図るという営為こそが社会(世界)のルールの標準と規定されている。
原基、物の始まりは衆目の一致、認定がなければ、必然の決定には至らない。
それをあえて、偶然である任意の形を原基と提示する。しかし、停止という修飾が付く。
《禁止された原基》という意味不明な唯一無二の原基をまことしやかに提示してみせるデュシャンの不遜とも思える揺さぶり。
計測、観念の否定、破壊…静かなる反逆である。
無意味、霧消に帰した思考を、一つの形で換言している。
明らかに存在し命名されているが、存在の意味も命名の意味も剥ぎ取られている。鑑賞者は従順にも肯定するだろうか、烈しい苛立ちにより無視という行為に及ぶだろうか、あるいは愉快に感じるかもしれない。
作品は意味の霧消を内包しているが、自らが語ることはない。
(写真は『DUCHAMP』ジャニス・ミンク/TASCHENより)