『チョコレート粉砕機』

 右端に載っている本物のチョコレート粉砕機を見て氷解したのだけれど、デュシャンの描いた粉砕機は単に単純化したものではなく、イメージを借用しただけの機能を剥奪したものに変換している。現物にはしっかりした台座があり、モーター(動力源)もあるし、回転させるための軸棒も頑強である。

 デュシャンの意図はイメージによるイメージの粉砕である。しっかりした台座は上部の重量に耐えられないような猫足に変えられ、粉砕のための動力源は姿を消している。
 ロールに張られた糸が遠近法に倣って図られているのは、本来描くべきという観念的な眼差しの拒否である。機械的(人工的)であることの主張を垣間見せつつ、機械的であることを欠落させたものを並置している。

 粉砕のパワー、機械的であることのアイデア、この重量感をもってする大げさ、且つ単純化された構造、工業的である『チョコレート粉砕機』。
 このイメージを簡略化に見せて実態を崩壊させている巧妙さ。

 役立たず=無用の長物を提示する不気味のまえで、鑑賞者はポカーンとせざるを得ない。
(果たしてこれは?)
 遠近法に倣って綿密に張られた糸に、写実を重ねる。迷路を用意しつつ《無/解放》の現場へ誘い込んでいる。


(写真は『DUCHAMP』ジャニス・ミンク/TASCHENより)